趣味で語学や言語学を勉強しています。ある単語を軸に、自分が得た知識を雑多にまとめていくつもりです。*1
専門家ではないので信憑性はあまりないです。ご注意ください。
概要
今回は'太陽'という単語について見ていきます。フランス語でsoleil、イタリア語でsole、英語でsun、ドイツ語でSonneです。フランス語のsoleilはシルクドソレイユ(Cirque du Soleil)、イタリア語のsoleは'O sole mio (これは正確にはナポリ語) を知っていれば分かりやすいかもしれません。
ヨーロッパ全体の言語地図は以下の通りです。*2
ロマンス、北ゲルマン、スラブ、バルトと広い地域でsとlが単語に含まれているのが分かります。
ロマンス諸語
ラテン語ではsōl (属格sōlis) で第三変化名詞です。スペイン語やポルトガル語では主格の形がそのまま受け継がれていますが、イタリア語では対格のsōlemからmが脱落したsoleという形になっています。*3ラテン語の子孫言語では対格に由来する語彙も多いです。
フランス語のsoleilはsōlに指小辞-culusが付いた*soliculusに由来するとされています。*4フランス語では指小辞-culusに由来する単語がそれなりにあります。cはどこへ行ったのかというと、ラテン語からフランス語への変化で語中の/k/の音が消える傾向があります。
sōlの形容詞形sōlārisはイタリア語のsolarやフランス語のsolaireはもちろん、英語にもsolarとして入ってきています。
ゲルマン語派
西ゲルマン語群では*sunnǭと再建されています。英語のsunやドイツ語のSonneは'日曜日'という単語にも含まれているのでなじみ深いです。(英語: Sunday, ドイツ語: Sonndag)
ちなみに'太陽'という単語はロマンス諸語では男性名詞となっていますが、ドイツ語では女性名詞なので個人的に混乱します。
また、北ゲルマン語群の祖語である古ノルド語ではsólとなっています。
スラブ語派
スラブ祖語では*sъlnьceと再建されています。西スラブ語群ではъとlが音位転換しています。このように母音と流音が逆転する現象は西スラブ語群でよく見られます。*5また、ロシア語のсо́лнцеはлを発音せず、ブルガリア語を除く南スラブ語群や東スラブ語群でもlの音がなくなっていることが分かります。
ギリシャ語
古典ギリシャ語ではἥλιος (hēlios) です。パッと見違う語源に見えますが、語頭においてラテン語のsとギリシャ語のhは対応しています。*6 (ex. super - hyper)
ἥλιος (hēlios) は元素の接尾辞-iumがついてhelium (ヘリウム) という形で英語にも入っています。
マルタ語のxemxはアラビア語のشمس(šams)に由来します。アラビア語で定冠詞ال(al)は次の文字が歯音、歯茎音、後部歯茎音のときlの音が逆行同化して長子音となります(ex. al + šams → aššams)。このような文字を太陽文字と言いますが、これは太陽という意味のشمسの語頭のشが太陽文字であることに由来します。
結び
一度こういうメモを作ってみたいと思いながらなかなか手を付けられなかったのですが、ようやく完成しました。専門家ではないので間違いなどあれば優しく教えていただけると幸いです。