面白いと思った言語学の論文まとめ ~朝鮮語編~

個人的に面白いと思った朝鮮語(韓国語)*1に関する論文のまとめです。

 

※専門家ではないので文章の正確さは保証できません。

 

・佐野三枝子,  朝鮮語の変則用言

https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=10477&item_no=1&attribute_id=19&file_no=1

朝鮮語の動詞の変則活用の由来について書かれています。不規則な活用も生じた過程を知ると楽しくなりますよね。

 


・新谷多枝,  日本語のアクセントと韓国語のアクセント

https://narapu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=934&file_id=21&file_no=1

日本語と韓国語のアクセントの違いや日本語話者が韓国語を話そうとするとき母語に引きずられる話について書かれています。いわゆる関西弁を話そうとするときなんかもそうですが、東京方言話者は1拍目が高だと2拍目は必ず低なので影響されがちなんですよね。

 

 

・福井玲,   朝鮮語音韻史の諸問題

https://www.jstage.jst.go.jp/article/onseikenkyu/7/1/7_KJ00007631248/_pdf/-char/ja

ハングルができた中期朝鮮語や、さらにその前の時代の朝鮮語について書かれています。かなり言語学的に詳細な議論がなされていてとても面白いです。この方は他にも朝鮮語の音韻に関する面白い論文を出しているので探してみるといいと思います。

 

*1:言語学では朝鮮半島のことばという意味で朝鮮語ということが多い

フランス語のややこしい冠詞とその由来まとめ

フランス語を学習していると様々な冠詞に出会います。英語の a にあたる不定冠詞の un/une と、英語の the にあたる定冠詞の le/la/les は、英語と多少の用法の違いはあれど比較的理解しやすいと思います。逆に、英語にはない概念として、不定冠詞の複数形 des や、部分冠詞 du / de la と呼ばれるものがあります。また、de grandes maisons の de のように前置する複数形形容詞の前には de を置くというルールや、Nous n'avons pas de villa. のように否定文の目的語につく不定冠詞は de になるというルールなど、一見理解し難いものもあります。そこで本記事では自分用にこれらをまとめます。

 

※間違い等あれば優しく指摘していただけると嬉しいです。

 

不定冠詞の複数形 des 

これは、数えられる名詞の前に置いて「いくらかの」という意味を表します。形は名詞の性に拠りません。

例:Elle a des bonbons. 

 

部分冠詞 du / de la 

これは、液体や気体など数えられない名詞や抽象名詞など、不可算名詞の前に置く冠詞です。男性形は du 、女性形は de la です。

例:Je mange du pain.

例:Vous avez de la chance.

 

複数形形容詞の前に置く不定冠詞 de

フランス語では、基本的に形容詞を名詞の後ろにおいて修飾しますが、一部の頻出形容詞では形容詞を前に置きます (grand, bon, nouveau など)。このような前置する形容詞複数形不定冠詞を置くとき、des ではなく de をつけるという規則があります。ただし、この規則は現在の話し言葉においてはあまり使われないようです(次節参照)。

例:de grandes maisons

 

上記3種類の冠詞の由来

これらの複雑な冠詞について調べたところ、以下の記事を見つけました。

dictionary.sanseido-publ.co.jp

不定冠詞の複数形 des と部分冠詞 du / de la はともに部分詞の de と定冠詞 (les/le/la) が結合したものであることが書かれています。この部分詞 de は名詞の一部分を表す働きをしたようです。イタリア語にも同様の冠詞があり、フランス語の des にあたるものと du / de la にあたるものはまとめて部分冠詞と呼ばれています。フランス語は機能に注目して可算名詞につくものを不定冠詞としているのに対し、イタリア語では部分詞 di に由来するものはすべて部分冠詞と呼んでいる、という違いでしょうか。

また、複数形形容詞の前に置く不定冠詞 de も部分詞 de に由来すると書かれています。前置する形容詞が定冠詞の代わりに限定の役割を果たすことで、定冠詞に由来する des (<de+les) が使われなかったようです。しかし近年ではその意識は薄れつつあり、口語では des の方が優勢のようです。

 

否定文の目的語につく冠詞 de 

フランス語では文を否定するとき、動詞を ne と pas で挟みます。否定文において、直接目的語につく不定冠詞は de になります。ここで、不定冠詞 un/une を持ってくることもできますが、「ひとつも…ない」という強調の意味がつくようです。

例:Nous n'avons pas de villa. 

 

否定文の目的語につく冠詞 de の由来

この冠詞についても記事を見つけました。

dictionary.sanseido-publ.co.jp

この冠詞は前の3種類の冠詞とは異なり beaucoup de... と同じ構造をしていて、pas de ... で「数量副詞 + 前置詞 de」に由来するそうです。

 

あとがき

フランス語のdから始まる冠詞について、その用法と由来をまとめました。読んだり聞いたりした知識はすぐ忘れてしまいがちですが、知識をまとめてアウトプットすると頭の中が整理されて良いなと改めて感じました。

ヨーロッパの語彙の比較1 太陽

趣味で語学や言語学を勉強しています。ある単語を軸に、自分が得た知識を雑多にまとめていくつもりです。*1

 

専門家ではないので信憑性はあまりないです。ご注意ください。

 

 概要

 今回は'太陽'という単語について見ていきます。フランス語でsoleil、イタリア語でsole、英語でsun、ドイツ語でSonneです。フランス語のsoleilはシルクドソレイユ(Cirque du Soleil)、イタリア語のsoleは'O sole mio (これは正確にはナポリ語) を知っていれば分かりやすいかもしれません。

 ヨーロッパ全体の言語地図は以下の通りです。*2

 

f:id:lavion:20200827232440p:plain

 ロマンス、北ゲルマン、スラブ、バルトと広い地域でsとlが単語に含まれているのが分かります。

 

ロマンス諸語

ラテン語ではsōl (属格sōlis) で第三変化名詞です。スペイン語ポルトガル語では主格の形がそのまま受け継がれていますが、イタリア語では対格のsōlemからmが脱落したsoleという形になっています。*3ラテン語の子孫言語では対格に由来する語彙も多いです。

フランス語のsoleilはsōlに指小辞-culusが付いた*soliculusに由来するとされています。*4フランス語では指小辞-culusに由来する単語がそれなりにあります。cはどこへ行ったのかというと、ラテン語からフランス語への変化で語中の/k/の音が消える傾向があります。

sōlの形容詞形sōlārisはイタリア語のsolarやフランス語のsolaireはもちろん、英語にもsolarとして入ってきています。

 

ゲルマン語派

西ゲルマン語群では*sunnǭと再建されています。英語のsunやドイツ語のSonneは'日曜日'という単語にも含まれているのでなじみ深いです。(英語: Sunday, ドイツ語: Sonndag)

ちなみに'太陽'という単語はロマンス諸語では男性名詞となっていますが、ドイツ語では女性名詞なので個人的に混乱します。

また、北ゲルマン語群の祖語である古ノルド語ではsólとなっています。

 

スラブ語派

スラブ祖語では*sъlnьceと再建されています。西スラブ語群ではъとlが音位転換しています。このように母音と流音が逆転する現象は西スラブ語群でよく見られます。*5また、ロシア語のсо́лнцеはлを発音せず、ブルガリア語を除く南スラブ語群や東スラブ語群でもlの音がなくなっていることが分かります。

 

ギリシャ

古典ギリシャ語ではἥλιος (hēlios) です。パッと見違う語源に見えますが、語頭においてラテン語のsとギリシャ語のhは対応しています。*6 (ex. super - hyper) 

ἥλιος (hēlios) は元素の接尾辞-iumがついてhelium (ヘリウム) という形で英語にも入っています。

 

アラビア語

マルタ語のxemxはアラビア語شمس(šams)に由来します。アラビア語で定冠詞ال(al)は次の文字が歯音、歯茎音、後部歯茎音のときlの音が逆行同化して長子音となります(ex. al + šams → aššams)。このような文字を太陽文字と言いますが、これは太陽という意味のشمسの語頭のشが太陽文字であることに由来します。

 

結び

一度こういうメモを作ってみたいと思いながらなかなか手を付けられなかったのですが、ようやく完成しました。専門家ではないので間違いなどあれば優しく教えていただけると幸いです。